薪を伐りて炭を焼く 白髪混じりの翁有り
咳く顔は煤こけて、両手の指は黒ずみぬ
いつも空き腹、単衣の着物、生計営む悲しさよ
三日三晩は寝ずの晩、ようやく焼いた炭なれど
売値の安きを憂えては、寒さの募るを願うなり
暁早く小屋を出で、牛車に積んで街へ出る
轍の氷轢き行けば、泥にはまりて牛あえぐ
夜来城外一尺の雪、市の南門陽既に高し
もう一息の辛抱ぞ、べこよ、すぐに飼い葉を振る舞うぞよと
手綱をとりて、将に市に入らんとするその刹那、
馬蹄の音も軽やかに、駆けつけ来たる、そは何者ぞ
黄衣の裾を靡かせて、従者を連れし宮中の役人
馬上で巻物読み上げて、勅命なりと、積荷を召し上げ
牛を駆り立て、車を返し、北の御所へと向かわしむ
炭の重さは千余斤、代わりは牛の頭にふんわりと
引っかけられし、わずか半匹の赤絹と一丈の綾絹
嗚呼、哀れなるかな、翁の背なに霙落つ