2016年11月14日月曜日

炭を売る翁 白楽天「売炭翁」より古澤月心訳


長安の南に(かす)終南山(しゅうなんざん) 粉雪舞い散るその山奥で

(たきぎ)()りて炭を焼く 白髪(しらが)混じりの(おきな)有り

(しわぶ)顔は(すす)こけて、両手の指は黒ずみぬ

いつも()(ばら)単衣(ひとえ)の着物、生計(たつき)営む悲しさよ
 
三日(みっか)三晩(みばん)は寝ずの晩ようやくいた炭なれど

売値の安きを憂えては、寒さの(つの)を願うなり

(あかつき)早く小屋を出で牛車(ぎっしゃ)積んで街へ出る

(わだち)の氷()き行けば、にはまりて牛あえぐ

夜来(やらい)城外(じょうがい)一尺の雪、(いち)の南門()既に高し

もう一息の辛抱ぞ、べこよ、すぐに()い葉を振る舞うよと

手綱をとりて、(まさ)市に()らんとするその刹那(せつな)

馬蹄(ばてい)の音も軽やかに、駆けつけ来たるそは何者

黄衣(こうい)(すそ)(なび)かせて、従者を連れし宮中(きゅうちゅう)の役人

馬上で巻物読み上げて、(ちょく)(めい)なりと、積荷を召し上げ

牛を駆り立て、車を返し、北の御所(ごしょ)へと向かわしむ

炭の重さは千余斤(せんよきん)代わりは(こうべ)ふんわりと

引っかけられし、わずか半匹(はんぴき)()()一丈(いちじょう)(あや)(ぎぬ)

嗚呼、哀れなるかな、翁の背なに(みぞれ)落つ