2014年8月26日火曜日

童話琵琶 ピョン太とケロティ~空の大冒険            古澤月心作 


     ピョン太ケロティ空の大冒険
 
① さあさあ、ピョン太とケロティ、空の大冒険のはじまりだよ。

 メダカの学校は、川の中、そっとのぞいてみてごらん。そっとのぞいてみてごらん。みんなでお遊戯しているよ。

(朗読) ここは、杉並浜田山、柏(かし)の宮公園の坂下には小さな、小さな田んぼが三つあります。

 田んぼには、ここで生まれた東京ダルマガエルたちが住んでいます。アカガエルやヒキガエルも住んでいます。アメンボーもいますよ。

今日のお話は、この東京ダルマガエルの兄弟、名前は、お兄ちゃんが、ピョン太、妹がケロティです。ピョン太は、妹思いのやさしいカエルです。

オタマジャクシは、カエルの子、ナマズの孫ではないわいな。それがなにより、しょうこには、やがて手が出る、足が出る。

(琵琶語り・大干) 5月になれば田植え時期、みんなで植えた稲の苗、すくすく育てばやがて秋、コロコロと、実った稲穂は、こがね波。

③(朗読) ところで、妹のケロティは、生まれた時から、体がすこし弱かったのですが、なんとも歌が上手で、鈴を転がすようなその声は、いつもみんなが聞きほれました。

かえるの歌が、聞こえてくるよ。クワッ クワッ クワッ クワッ ケケケケ ケケケケ クワッ クワッ クワッ。

④ ある日のこと、田んぼのそばの松の木にカラスがとまっていました。名前はブラッキー、ところが、ブラッキーは、急に聞こえた救急車のサイレンの音に驚いて、羽根を枯れ枝に引っかけ、ケガをして田んぼの畦(あぜ)に落ちて、気絶してしまいました。(スリ)

可哀想なブラッキー、ピョン太は、ブラッキーが気がつくまで、田んぼの水を掛けてやりました。

(琵琶語り) かけろ、かけろ、水かけろ、ブラッキーのあたまに水かけろ。カラスのぎょうずい、濡れ羽色、ジャンジャンかけろ、水かけろ。水かけろ~。

(朗読)ようやく、ブラッキーは気がついて、羽根をバタバタさせました。飛びたくても力がはいりません。弱々しく、「カア、カア」と鳴きました。

④ ピョン太は、一晩中、そばにいて、かいほうしました。ケロティは、そばで歌をうたって元気づけました。二人のお陰でようやく元気をとりもどしたブラッキーは、次の朝、無事に飛び立っていきました。「ありがとう、又来るね~」

⑤ それから、ブラッキーは、ピョン太たちと、大のなかよしになりました。ブラッキーは、毎日のように、遊びに来ては、空から見た景色や、遠くの様子を話して聞かせます。

「僕の生まれた和田堀公園はね、ここよりもっと広い森や広場があるんだよ」

「ふ~ん、ここより、広いところあるの」ケロティがたずねました。

「そうだよ、何百倍、何千倍もひろいよ」

「ヘー、そうかあ、僕たちも空を飛んでみたいな。ねえ、ケロティ」

「うーん、飛びた~い」

ケロティは目を輝して言いました。

⑥ 5月になると、よい子達の田植えも終わり、月夜の晩などは田んぼのカエルたちは、みんなで、コロロ コロコロ コンコロロと心ゆくまで合唱しました。

 月夜の田んぼで、コロロ コロロ コロロ コロコロ 鳴る笛は、あれはね、あれはね、あれはカエルの銀の笛、ささ、銀の笛。

⑦ (朗読)こんな楽しい日が続いた、ある雨上がりのお昼のことでした。ミツバチが花から花へ、かろやかに飛んで蜜を集めています。アゲハチョウも飛んできて、花の蜜をおいしそうに吸い始めました。ケロティは、それに見とれて、もっと、そばで見たいと田んぼのあぜにのぼりました。ところが、ケロティは、日頃、ガマガエルのじいさんに、注意されていたことをすっかり忘れていたのです。

「いいかい、ケロティ、危ないから、ぜったいに、ひとりであぜにのぼってはいけないよ」

⑧ でも、その時でした。水を飲みに来ていたシマヘビの悪ニョロが、ケロティをねらって、ヒタヒタと後ろに忍びよっていたのです。

いち早く見つけた、ともだちのギンヤンマのブルルンが、「ケロティ、あぶない!」と叫びました。

⑨ ケロティは、あわてて、いそいで田んぼに飛び込もうとしました。でも、一瞬、遅かったのです。悪ニョロに、 パクッと、うしろ足をくわえられてしまいました。

もがけばもがくほど、ケロティの体は、呑み込まれて、悪ニョロの口の中にヌル、ヌル、ヌル、ヌル~。ヌル、ヌル~とはいっていきます。もう体半分隠れてしまいました。

「助けて~!」ケロティが必死に叫びました。絶対絶命!カエルたちは、大騒ぎです。でもみんな、どうすることもできません。

⑩ とその時、何やら、上の松の木から黒いボール球のようなものが、目にもとまらぬ早さで落下してきました。ブラッキーです。つばさを閉じて急降下!悪ニョロ目がけて体ごとぶつかりました。

(琵琶語り) 「イテテテテ!」 ビックリ仰天、悪ニョロは、 思わず悲鳴をあげました。途端に口からケロティが、 ポチョンと抜け出て落ちました。 悪ニョロは一度ひるむも、負けずに体制立て直し、ブラッキーに戦いを挑みます。ジリジリと間合いをつめるブラッキー。 悪ニョロ、鎌首もたげて、張り裂けんばかり、口押し開けて威嚇する。 一瞬、隙(すき)を見つけたブラッキー、 パット飛んだら、後ろに廻り、悪ニョロのしっぽを捕まえる。力を込めて、悪ニョロを、くるくる回すや、ハンマー投げ。たまらず、悪ニョロ空中へ、 縄のようにすっ飛んで、木にバシッとぶちあたる。 悪ニョロは、長々とのびてしまったよ。

(朗読) 「いいかい、今度また田んぼに近づいたら絶対承知しないからな」「わかった、わかったよ」

悪ニョロは、痛い体をひきずって、すごすごと田んぼをはなれ、近くの森に帰っていきました。

⑪ でもケロティは、それからすっかり元気がなくなりました。
 
(琵琶語り・吟替わり) 余りのショックに ケロティは、 声が全然出なくなる。ただ黙り込むケロティに、 みんな心配するけれど、まったく元気がありません。何とか昔の明るさにもどってほしいと仲間たち。ひたいをよせて知恵しぼる。

⑫(朗読) いい知恵が浮かびません。そこで、ものしりのガマガエルのじいさんに、相談することにしました。

「そうじゃのう、まずは、ケロティに、笑顔を戻してやることじゃ。笑顔が戻れば、声もいっしょに戻るさ。ケロティは、今、その笑顔を心のとびらの奥に閉じこめてしまったのじゃ。でも心の扉をあけるには、魔法のかぎが、必要なんじゃ。さて、そのかぎじゃがの・・・、ケロティが、一番、よろこぶものを探してやることだよ」

⑬(琵琶語り・変調) 二十日(はつか)ぐらいが過ぎました。それでもケロティ、声出ない。魔法のかぎも見つからない。みんな困ったその時に、ブラッキーが遠慮がちに言うことにゃ、さの言うことにゃ」 

(朗読)「ケロティは、空を飛びたいといつも言っていた。一度、僕の背中に乗せて飛んでみるよ。空を飛べば、よろこぶかもしれないよ」

カエルたちは、びっくりしました。仲間のいっぴきが、あきれて、

「カエルが空を飛ぶなんて聞いたことがないよ、もし落っこちでもしたらどうするんだよ」「そうだそうだ」

「第一、かえるが空を飛ぶなんて聞いたことがないよ」

ワイワイガヤガヤ、みんな反対しました。

⑭ するとブラッキーが、もう一度言いました。

「飛ぶのは、田んぼの上だけにするよ。それも、すれすれに低く飛べば、万一落ちてもケガはしないだろう?」

「んー、なるほど、それならだいじょうぶかなあ~」

カエルは、ジャンプは、得意です。みんなうなずきました。ピョン太もいっしょに乗ることで、ケロティは、コクンとうなづきました。 

⑮ まずピョン太が、ブラッキーの背中に乗り、前足で羽根毛をつかみ、後ろ足をピタッと、ブラッキーの体に吸い付けました。

「さあ、ケロティ、だいじょうぶだよ、うしろに乗って!ぼくにしっかりつかまるんだよ」

ケロティは、さいしょ、おっかなびっくりでしたが、思い切って、ぴょんと飛んで、乗りました。 

⑯ ブラッキーは、まず、二人を乗せて、あぜのまわりをゆっくり、一周しました。ブラッキーが歩くたびに、ふたりの体は、左右にゆれて、ヒョコ、ヒョコ、ヒョコ。ギンヤンマは、それがおかしいと、笑いころげ、トンボがえり。カエルたちも、ケロケロ、笑いながら水音たてて、しぶきをあげ、ピョン、ピョン、ピョンとはねました。

(琵琶語り) ケロピョン ケロピョン ケロピョンピョン ケロケロ ピョンピョン ケロピョンピョン

⑰ このときです、ケロティが、みんなの笑いにつられて、ニッコリ、笑いました。ようやく心の扉が開いたようです。

⑱ ブラッキーが言いました。
「いいかい、今度は、田んぼの中をすれすれに飛ぶからね、しっかりつかまっているんだよ」

ブラッキーは、体をしずめると、大地をふんわり、足でけりました。ブラッキーの翼がしなり、体がふわっと浮き上がると、つばさがヒューとなり、田んぼの稲が、さざ波のようにゆれました。

⑲ 田んぼをひとまたぎして反対のあぜにおりました。すると、ケロティが、思わず声をだしたのです。

「ねえー、ブラッキー、あっちまで飛んで!」

「おおー、おじょうさん、口をきいたね。いいともさ、今度は、田んぼを三つ越すからな」

ケロティは、すっかりなれて、ちょうしにのりました。

「ねー、お願い、今度はもっと、たかく飛んで」

「ピョン太、いいかな?」

「うん、しっかりつかまっているから、いいよ」

「よし、じゃあ、ゆっくり飛ぶからね」

⑳ ブラッキーは、ゆっくり、ゆっくり大空へまいあがりました。下を見ると、田んぼの横の池の古代はすが、赤く咲いて太陽にかがやいているのが見えました。小さな田んぼが、ますます小さく、小さくなっていきます。土手のうえの松の木の高さまで来ると、(かし)宮公園を一周し、北に向かいました。すぐに、大きな森が見えます。

「あれが、大宮八幡さまの森だ。ぼくの家族や、友達がが住んでいるんだ。それから右を見て! 大きなグラウンドで人が大勢かけっこしているよ。運動会だな。そのそばに白い建物が有るだろう。あれは大宮小学校だよ」

ブラッキーは、おしゃべりしながら、大宮八幡様の境内の中の、銀杏の木にとまりました。

21 そこで、ブラッキーは、神様においのりしました。

「神様、浜田山の池と田んぼが、いつまでも、住みよいところでありますように。仲間たちが、病気にかからず元気でありますように。それから、田んぼの稲が、秋には立派な、りっぱな稲穂をつけて、よい子たちが、楽しく稲刈りできますように」

22 ブラッキーは、八幡さまの森の中を流れる善福寺川や、和田堀公園の池も案内して、仲間達のいる浜田山の田んぼに帰りました。

23 それから、ケロティは、みちがえるようにすっかり元気になって、もとのいいのどで、歌がうたえるようになりました。

それからケロティは、みんなに、大空から、ながめた杉並のまちなみや、はちまんさまの森のことをいつも、得意そうに話してきかせました。

ピョン太は、そんな妹をそばで、うれしそうにながめて、ブラッキーに感謝しました。ブラッキーも、恩返しができて、うれしくて、うれしくてたまりませんでした。           (おわり)